日本人はピラティスでもっと自由になれる〜ミスアース日本代表・前田智子さん×河辺千恵子さん【My Story】

ピラティスを継続的に実践することで、身体や精神、はては人生そのものが変わったという先輩たちの話から、ピラティスで自分を「変える」ためのヒントを得ようというこの連載。今回紹介するのは、2011ミス・アース日本代表にも輝いた、モデルの前田智子さんだ。

前田さんは自らモデル・リポーターとして活動するほか、ピラティスインストラクター資格を取得し、後輩モデルの身体づくりやポージング、ウォーキングの指導も行っている。また、高校卒業後に5年間のニューヨーク留学を経験したことで、日本人の心身のあり方について、ある課題意識を持つに至ったという。

同学年で同じモデル出身と、共通点の多いBASIピラティスのインストラクター河辺千恵子さんがホスト役を務め、対談形式で話を聞いた。

便利さに囲まれた暮らしが日本人から身体感覚を奪っている

河辺:智子さんはニューヨークに住んでいた時期があるそうですね。いつ頃のことですか?

前田:2005年からの5年間です。高校時代はダンス漬けの生活を送っていたんですが、その先の進路を考えた時に、自分で踊りたいということ以上にダンスの評論ができるようになりたかったんです。日本の大学へ進むことも考えましたが、みんなが言う「本場」へ行った方がいろいろと理論が学べるだろう、と。

その時点では一人暮らしの経験さえなかったのに、ある日突然「私、ダンスで生きていきます」って宣言して。今思うと恐ろしいんですけど、何も知らないって力ですよね(笑)。

河辺:すごい行動力! でも、それくらいの年齢の時には確かに「根拠なき自信」のようなものがあるかもしれないですね。行った先では望むような勉強ができたんですか?

前田:本当に何も分からないままに受かった学校へ行ったので、最初に行った先はものすごく辺鄙なところにある大学でした。刺激が少なかったし、オーディションを経ずに渡米したので、受講できるのも座学だけ。このままでは自分が望むようなことは学べないと思って、それからいろいろな大学のダンスオーディションを受けまくり、運良くニューヨークシティにある大学へ転入することができました。

ニューヨークという場所は、期待していた通りに勉強するのにすごくいい環境でしたね。流通しているフィットネスに関する情報量が他の場所とは段違いに多かったし、生活している人一人ひとりの、身体を使うことへの意識が非常に高い場所だと感じました。

河辺:身体を使うことへの意識が高い?

前田:ダンサーやインストラクターといった身体の専門家はもちろんですが、週末にだけジムに通うような一般人でさえ、すごく知識量が多い。それに、身体を動かすことへのハングリー精神がすごいんです。

日本のスタジオだと、最初に身体を動かすことのメリットを説明するところから始めることが多いですよね? 向こうではそれが必要ない。「それは全部分かった上で来ているから、早くやらせて!」っていう人がほとんどなんです。

河辺:その違いってどこから来ているんでしょう?

前田:一つは環境の違いなんじゃないかと思います。というのも、ニューヨークは日本と違って交通サービスがとにかくひどい(笑)。日本に帰国して驚いたのは、電車に乗っているとたった1分の遅延でさえ「申し訳ありません」ってアナウンスが流れることです。ニューヨークの地下鉄にはダイヤ自体ないくらいなので、全くあてになりません。

だから向こうの人は基本的に歩いて移動するんです。サラリーマンは当たり前のようにスニーカーを履いて出勤しますし。日常的に求められる運動量が多いんです。

河辺:そう言われてみると、便利すぎることが日本人から身体についての感覚を奪っているのかもしれませんね。

前田:そうだと思います。フィットネスって、どこの筋肉をどう動員しているのかが感じられるようになってしまいさえすれば、電車に乗っていようが階段を上っていようが、どこにいたってできるものですよね。でも、日本の環境ではそのためのセンサーのようなものが育ちにくいように思います。

頭で納得してから動く日本人。まず身体を動かしたいNY人

前田:そうした日本人とニューヨークの人との違いは、ピラティスのクラスでもアプローチの違いに表れていたような気がします。

河辺:それはぜひ聞きたいポイントですね。どんな風に違いました?

前田:向こうではほとんどコレクション(間違いを正すこと)をしないんです。キューイング(助言)もしないし、バックグラウンドの説明も一切ない。もちろん人によって違う部分もあるにはありますけど、「Tポジション」だとか「テーブルトップ」だとかも言わずに、ただ「膝をあげて。次は横に倒して……」っていう感じ。総じてとってもシンプル。最初は雑だなと思ったくらいです。

河辺:外国人のインストラクターのレッスンを受けると、確かにそういう印象を受けることがありますね。でも、例えば10人のクラスでそれをやると、10人がみんなバラバラになってしまったりしないんですか?

前田:たくさんいる中にはもちろん、アウターマッスルを使ってしまっている人もいますよ。でも、さっきも言ったように「やった気」になりたいという人が多いので、いちいち止めて正しい動きに直すよりも、動く中で自分で気付いてほしいというスタンスをとっているような気がします。

河辺:なるほど。そこは日本人との大きな違いかもしれませんね。日本人は、最初に十分に説明してもらって、納得した上でやりたいという人が多い傾向にありますから。少し真面目すぎるというか……。

前田:もう一つ、ピラティスがもともと欧米人の体に合わせて作られたメソッドだということも、違いとして大きいと思います。だから何となくやっているだけでも自然とハマる。

狩猟民族だった向こうの人の身体は日本人と比べて骨盤が前傾と言われているので、ピラティスで後傾位の練習をさせることは理にかなっているし、それさえできれば全てできるようになってしまうようなところがある。日本に帰ってきて、改めてそうした違いを実感しましたね。

生まれ持った体型は一人ひとり違う。最適な見せ方も人それぞれ

河辺:現在はピラティスを活かして、モデルさんの身体づくりを指導しているそうですね。先ほどの日本人と欧米人の違いもそうですけど、モデルの仕事も持って生まれた体型によるところが大きいような気がしますが?

前田:骨盤の角度などはもちろん親から譲り受けたものです。でもある程度は筋肉を鍛えることで作れるものでもあるんですよ。少し具体的に言えば、中臀筋と外旋六筋とハムストリングを鍛えることで、お尻を丸くします。そのためにピラティスでいう「バタフライ」や「クラム」、「ペルビックカール」といったトレーニングを重点的にやったりします。

河辺:そうなんですね。ひと口にモデルといってもさまざまなお仕事があると思うんですけど、そうしたモデルの種類によってトレーニングの方法も変わるんですか?

前田:そうですね。例えばランウェイモデルの細くて綺麗なボディラインは、一般的に骨格だけで作られているものなので、表面の筋肉をつけちゃいけないんです。

だからピラティスを行う目的も筋肉をつけることではなく、どの筋肉に力が入っているのかを感覚として知ってもらうことに置いています。ウォーキングのクラスの導入にピラティスをやっておくと、いざ歩き方の指導をする際に「さっきやったあの感じだよ」と言うだけで、大事なことを感じ取ってくれるようになります。

一方で、欧米人のような女性らしい身体のラインが欲しいというタレント寄りのモデルであれば、同じ運動を悲鳴が出るくらい徹底してやることで、お尻の筋肉を作ります。ピラティスの本道からすれば「そんなにいじめても質の良い筋肉はできないよ」と指摘されるようなトレーニングですけど、モデルは筋肉の質よりも見た目が重要な仕事ですからね。

河辺:モデルさんの身体をそういう目線で見たことはなかったけれど、すごく理論的で説得力がありますね。どうやってそういう考えに至ったんですか?

前田:私自身が100%体型に恵まれたモデルではなかったので、どう見せるかというのをすごく考えてやってきたつもりです。理屈で考えてというよりは、「こうやってみたら写真写りが良かったから、今度はもっとこうしてみよう」という風に、結果からフィードバックを得て修正していきながら、自分なりの見せ方を身につけた感じです。

体型は一人ひとり違うので、最適な見せ方も人それぞれです。モデルは天性の体型を活かして仕事をする華やかな世界と思われがちですけど、実際には地道な努力を重ねて自分なりの見せ方を見つけていく職人の世界なんだと思います。言い換えれば、生まれ持ったきれいな身体がなくたって、見せ方を覚えれば仕事になる世界なんです。

自分と向き合う時間を設けることが、その先のキャリアをも開く

河辺:智子さんのレッスンに来る方はどんな人が多いですか? モデルさんだから「目の前の結果が欲しい」という人が多そうですけど、長い目で見て健康になりたいという人も?

前田:若いうちは気にならなかった体型が気になり始めたという、ある程度キャリアを積んだ子が多いですね。と言っても私よりは若いんですけど(笑)。この先も長くモデルを続けるためにと始めて、やっているうちに健康への意識も高まるというケースが多い気がします。でも、モデルがピラティスをやるのにはそれ以上の意味があると思っているんです。

河辺:と言うと?

前田:千恵子さんもよくご存知だと思いますけど、モデルという仕事は一度軌道に乗ったからといって、必ず右肩上がりに良くなっていくという世界ではないですよね。今日うまくいったとしても、次のオーディションも通る保証なんてない。まして年をとれば筋肉はどんどん落ちていきますし、若い後輩が次々に出てきます。若い頃の自分や周りと比べてばかりいたら、とてもじゃないですけど、不安でやっていられなくなりますよ。

かといって、「アラサー」になって別の道に進もうとしても、「それまでモデル1本でやってきたから、自分には他には何もない」と思ってしまう人も多い。特に芸能寄りの人は事務所の押し付けも強いですから、自分のやりたいことを見失ったまま来ているケースがほとんどです。

河辺:分かります。みんなに持ち上げられて自分がいるのに、乗り物があったことにも気づいていない、みたいな。それである時スッと神輿を降ろされて……。

前田:そうならないためにも、若いモデルの子には日頃から「私は私で大丈夫」って思えるものを何か持ってほしいと伝えてます。ピラティスはそれを見つける手助けになりますよ。

自分の身体と日々向き合っていれば、だんだんと自分のことを知るためのセンサーが増えてくる。次第に身体の状態だけじゃなく、自分は何が好きで何が嫌いなのかといったことまで見えてくるようになりますよね。そうやって他人からの評価ではなく、自分なりの軸や方向性を見つけることが、生きる助けになると思っています。

河辺:おっしゃる通りだと思います。私もまさにそういう時期を経て、ピラティスと出会ったんですよ。

前田:読みましたよ、千恵子さんの記事(笑)。私自身もそうで、2年前にピラティスの資格を取るまではどん底の状態にあったんです。ちょうど芸能寄りに仕事をシフトした時期で、思うようにいかないイライラが溜まっていた。またそれをぶつけたことで、プライベートの人間関係もうまくいかなくなる悪循環にはまっていました。

抜け出せたのは、受け身で仕事が来るのを待っているのではなく、自分の力でどうにかできる軸を作ろうと行動したから。それが、BASIの養成コースに通ってピラティスの資格を取ることだったんです。

モデルの仕事は明日どうなるかも分からないけれども、ピラティスであれば自分でスキルを伸ばしていくことができるし、良いと思うものを人に教えることもできる。そうやって今では、その人の人生のターニングポイントになるかもしれない瞬間に立ち会えていることに、日々喜びを感じているんです。

やりたいからやる。それすなわちマインドフルネス

河辺:エクササイズはご自身でも毎日やってるんですか?

前田:正直全然ですね。リポーターとしての仕事もしながら人にも教えているので、なかなか毎日というわけにはいきません。でも、毎日「やらなければいけない」と思ってやるようなピラティスはしたくないと思っているんです。食べることやお酒を飲むことに関しても同じ。毎日のノルマのように感じてストイックにやるのは、私のスタイルじゃないなって。

河辺:「それでいい」というスタンス?

前田:もちろん、身体を変えようと思ったら食べ物を変えるのはマスト。でも、そこで我慢しすぎるとストレスが溜まって、逆にむくんできちゃったりするんです。だから私は我慢することをやめた(笑)。エクササイズも毎日やれば、良い自分を保ったりステップアップしたりできると思います。でも、形あるものは全ていずれは崩れていくもの。むしろそれを受け入れられることの方が大事なんじゃないかって思いますね。

同じ本を読み返しても、自分の立ち位置次第で感じ方は違うはずです。それはただ変わったということであって、ある感じ方が正しくて、別の感じ方が間違っているというわけではないですよね? それと同じ。私にとってのピラティスとは、より良くなっていくためのものというより、昨日とは違う自分を確認し、受け止めるためのものとしてある気がします。

河辺:「頭で納得した上でないと動かない」という話もそうですけど、日本人の生真面目さが仇になっているところもありますね。

前田:そう思います。ニューヨークにダンス留学した時に感じたのもそれで、あっちの人はコンテンポラリーダンスが表現する精神世界なんて全然分からないけれど、それでも自分がいいと思ったものに対して気軽に「いいね!」と言えるところがあります。やっぱりエンタメの国なんですね。日本人には少し「楽しい!」が足りない気がします。

私の友人は「人生には限られた時間しかないから、どんな瞬間も苦しいのは嫌」だと言っていました。私もそう思う。エクササイズを続けていると言うと「えらいね」と言う人がいるけれど、別にやらなければならないからやっているわけじゃない。ただ気持ちいいからやっているだけですよ、と。

河辺:そうですよね。だから私もレッスンに来てくれる方には、「悪いところを直すぞ」と気合を入れるよりも、温泉に入るような気持ちで来てほしいと言っているんです。「気持ちいいかどうか」はポイントですよね。

前田:そうそう。やりたくないエクササイズなんてやる必要ない。やらなきゃいけないからやるのではなく、やったら気持ちいいことをやる。「やりたいからやる」っていう状態こそがマインドフルネスなんだと思う。「自分を変えるんだ」なんて頑張らなくたって、幸せだなって思える瞬間を増やせばいいんじゃないでしょうか。

text by Atsuo Suzuki

2011ミス・アース日本代表 前田智子さん

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■モデル・MC・リポーター
NHK World “great gear” リポーター
J-WAVE “ZAPPA” 日曜日 ナビゲーター

PINX.MANAGEMENT
ダンサーとして活動する中で、舞台では表現しきれない細かな表現を可能にする写真や映像という媒体にひかれ、モデルを始める。
現在はPINX.MANAGEMENTに所属し、持ち前の語彙と英語力を活かし、モデル・MC・リポーターとして活動。

■ボディラインスタイリスト ピラティス&ウォーキングインストラクター
t-made body works
ダンサーとして、モデルとして、日本代表として、多様なニーズに合わせて体を幾度となく変えて来た経験を、PilatesベースのエクササイズやWalking指導で提供。
筋肉の使い方を変えて、自分の力で理想のラインをつくる。

■2011 Miss Earth Japan 環境保全活動家
ガールスカウト東京第132団に所属し、幼少時からキャンプで登山やテントの設営、ボランティア活動の経験を積む。
NYから帰国後、2011ミス・アース・ジャパン(日本代表)に選ばれ、84カ国が参加した世界大会に出場。ナショナルコスチューム部門で世界一、総合トップ16位入りを果たした。Save Minamisoma Projectの親善大使、 JEMAI環境ラベルプログラムのアドバイザリーボードを務め、WWF JapanのEarth Hourを推進、数々の慈善事業に公私共に積極的に取り組んでいる。

■ダンサー・振付師
ジャズダンス・バレエに打ち込む中で、より自由な表現方法・コンテンポラリーダンスに出会い、ニューヨーク市所在のMarymount Manhattan Collegeへ 留学。同大学で、グラハム、ホートン、ニコライ、カニングハム、リモーンテクニックに加え、解剖学、ダンス史、評論などダンスの学術面を学ぶ。振付けや即興といった技術も身につけ、自身の振付け作品Destiny ≠ Consequencesを同大学の代表として Dance Theater Workshopにて発表。2009年5月に BFAを取得し卒業。
卒業後はフリーランスとして様々なカンパニーで活動。2010年6月にはJudson Memorial ChurchにてPat Catterson振付けのThere is No Conclusionに出演。振付師としてもニューヨーク市で開かれるフェスティバルに選抜され、 How R U? を2009年10月にReverb Festivalに、1 or A? を2010年6月にYoung Choreographer’s Festivalに出品。日本では2011年7月N.N.N.2~あの子のところまで、ガンガン行こうぜ!~に選抜されT-MADE Dance Companyとして参加、 1 or A?を新しいキャストで発表。
2016年1月には、Pat Cattersonの世界を中継する新プロジェクトに参加、 NOW に出演。