『シニアに最適なピラティス』とは~その年齢でいちばん美しくいること。幸せでいること。

シニア指導に深い知識と技術をもち、世界中からオファーが殺到するシェリ・ロングさん。
20代に必要なものと、年齢を重ねた心身に必要なものはどう違うのか。また、どのような気持ちで向き合っていけば良いのか。『シニアのためのピラティス』についてお聞きしました。

「シニアのためのピラティス」を熱心に取り組むきっかけは?

仰向けにさせて、20分間ずっとストレッチ。
「これは違う」「では何をすれば」と感じたのがはじまり。

私が年齢を重ねた方へ向けたピラティスに力を入れるようになったのは、まず私自身、歳上の人の近くにいることがとても好きだったからです。彼らが持っているそれぞれの物語や人生経験をとても大切だと感じていました。やがて、親しくしていた彼らが私のところへセッションを受けに来るようになって、自然に広がりました。

当時はピラティス界、あるいはフィットネス界全体がシニアへ向けて適切な対応ができていなくて。例えば、インストラクターが彼らを仰向けにさせて20分間ずっとストレッチをしている、とか…。そういうのを見ていて、「彼らに必要なものは何か」自分の中でまだ明確ではないものの、寝たきりのままは、「違う」と感じたんです。

年齢を重ねた身体に必要なものを良く知るために、彼らの身体をきちんと理解することが大切だと思いました。まず科学的な見地からアプローチするために、高齢者と日々接している医師や理学療法士の方々と共に学びました。同時にクライアントを見ながらたくさんのことを学びました。彼らがさらに年齢を重ねていく上でどんな変化があるのか、どんなパターンがあるのか、それぞれ違います。

シニアクライアントが「質の高い人生・生活を送るために自分は何ができるか」。私たちインストラクターにはサポートする責任があるのです。

シニアのピラティスで気をつけることは何でしょう?

一人ひとりの身体に起きていることを理解する。
何が安全で何が適切かを知っておくこと。

若い方にはあまりなく、シニアによくあるのは脊椎の問題です。脊椎症や狭窄症など椎骨の症状。
年を重ねるから必ずその症状が現れるかというとそうではありませんが、もしそういう疾患を持つ方がいるなら、それはどのようなことで、どのような対応をすべきかを把握するのは、インストラクターの仕事です。骨粗鬆症も彼らに多い症状です。もし、骨粗鬆症を持つのであればその人には何が安全で、どのようなものが適切かを知る必要があります。

特に目立った症状がなくとも、身体は一人ひとり違います。柔軟性のあまり高くない人、過可動性を持つ人。難しいと感じる動きは人それぞれです。

ピラティスの良いところは「グループであってもプライベートであっても一人ひとりを見ていくことができる」こと。その人にとって必要なことを、アプローチしていくことができるのです。

男性と女性に違いはありますか? それは心?それとも身体?

女性の方が男性に比べると柔軟性は高い。
けれど、そこは問題ではないのです。 

男性と女性の違い…あると思います。心も身体も両方(笑)。

一般的に男性は女性に比べると柔軟性が低いため、例えばある特定のポジションで脚を伸ばして!と言った時に、同じようにはできません。もしかすると、「自分ができないのは、ピラティスが女性向きのものだからだ」と感じた男性は次回からレッスンに来ないかもしれません。けれど、もともとピラティスは男性のために考えられたエクササイズなのです。また、男性に限らず、ピラティスはダンサーや「特別なことをしている人」のためのものと思っている方もいるようですが、そうではありません。ピラティスはすべての人々に機能的な動作としてつくられたものであり、ピラティスをすることで一人ひとりの日常生活を維持、またはよりよくすることができるのです。バランス感覚とか筋力、可動性、これらすべてのものがピラティスを通して得られることを、しっかり伝えていく必要があります。

「ピラティスを続ける意味」をどう提示していますか?

「犬の散歩で転ばない」「お孫さんとしっかり遊べる」
この運動が自分の生活にどう役立つか、を具体的に話します。

まず、とても大事なのはシニアを年寄り扱いしないこと。繊細なセトモノのような扱いはしません。私は現実的ではあるけど高い期待をします。そして楽しく実現するための工夫をします。今ここでやっているピラティスは、こういう風にすることで(例えば)テニスのパフォーマンスがもっとあがることを伝えます。もし犬を飼っている方がいるのであれば、スタジオの中でやっていることが「転倒しない犬の散歩」につながることを話します。

「いま臀筋(でんきん)を鍛えているけど、お尻を強くすることによってしっかり立つことができるから、転びにくくなりますよ」「身体を強くすることによってお孫さんたちと遊べるようにしましょうね!」…自分は何のためにこのエクササイズをやっているのか、理解しやすいようになるべく具体的に伝えています。

ピラティスというのは何だかすごいキラキラとした魔法のようなもの!と思っている方もいるようですが、そうではなく本当に機能的で日常に役立つものなのです。

ピラティスで脳も活性化されますか? 認知症の予防にもなりますか?

「予防できる」という言葉は使わない。ただしマインドを鍛えることで、
年齢による記憶障害を引き起こさない助けになるとは考えます。

ピラティスと認知症予防の関係性は証明されていないので、「予防できる」という言葉は使わないようにしています。ただし、マインド、思考を他の身体の中にある筋肉と同様に鍛えるということをすれば、年齢による記憶障害を引き起こさない助けになるとは考えます。運動することによって血液の循環が高まるので、それによっても記憶を失って割れてくことを防ぐことができるのではないでしょうか。

ピラティスというものはマインドフルに行うエクササイズです。だから、回数はたくさんやらない。ひとつの動きに10回程度。それ以上になってくるとだんだんマインドレスになってくる。これは20代でも同じです。

シニア世代にもっとピラティスを身近に感じてもらうには?

一人ひとりの身体にあわせて提供すること。
ベネフィットをクライアント自身に理解していただくこと。

ピラティスは年齢を重ねていく身体に、ものすごく効果的です。ただし、もともとあるピラティスのレパートリーをそのまま使うのではなく、その世代のニーズに合わせて変えていく必要があります。

例えばシニア世代はバランス能力を高めていく必要がでてくるのでより立位のワークを増やします。そしてより筋力を高めていくことがとても大事になっていきますが、そのことをクライアント自身にしっかり伝えます。「筋力が高まることによって、転倒のリスクを減らすことができるんですよ」というふうに。身体の状態にあわせて適切な内容を提供すること、そしてピラティスから受けられるベネフィットをクライアント自身が理解していること、これがとても大切です。

それと…プライベートレッスンを受ける、ということが彼らにとって予算オーバーになってしまう、もしくはお金があっても1回のセッションにそれだけかけるということに抵抗を感じてしまう世代かもしれません。そんな時、彼らが居心地よく参加できるグループの設定が必要ですね。もしかすると20代の人たちと同じクラスを受ける、ということが居心地が良くない場合もあるので… 居心地が良い環境をつくることも大切です。

プロフィールにも書かれてあるAgeless Beautyとは?

その年齢でいちばん美しくいること。幸せでいること。
肉体的にも精神的にも強くいることで、美しくいられる。

ワークショップの名前を考えていた時に、「エイジング」という言葉を使いたくなかったんです。なんだかとても響きがネガティブな感じがして…。だけど「エイジレス」なら永遠です。エイジレスと言った時は20歳でも50歳でも70歳でも80歳でも、その年齢にかかわりなく美しさを持つということです。

エイジレスビューティは私にとって、年齢より若く見せようとするのではなく、その年齢でいちばん美しく、そして「強く」いるということです。肉体的にも精神的にも強くいることによって、年齢に関係なく美しくいることができる。幸せでいられる。私は自分より歳上の方がイキイキと強く生きているのを見ると、その人にシワがあろうがなかろうが美しいな、と思います。
自分を強く感じることができ、自信があるとそれだけで背を高く、姿勢を保つことができますよね。

ピラティスはそれを与えてくれるのです。

最後にシニア、ポストシニア世代にメッセージをお願いします!

遅すぎることは絶対ない!
好きなこと、楽しいことを続けて!!

「私はもう遅いから…」とおっしゃる方がいるけど、そんなことは絶対ありません。
いくつになっても遅くないし、どの年齢でも筋肉の量を増やすことはできるのです。
私たちはあなたに強くいてほしいと思っています。
あなたが好きなことをやって、楽しいなと思うことを続けてほしいと願っています。

私は私のクライアントに、もし110歳くらいになったら「年をとった」と感じていいよ!と言っているんですよ。

text by Keiko Sato