タイガー・ウッズや伊達公子はなぜピラティスに取り組むのか?アスリートの心身にもたらす効果を海外トレーナーに聞く

プロゴルファーのタイガー・ウッズ選手やテニスプレイヤーの伊達公子選手など、トレーニングにピラティスを取り入れているとされるトップアスリートは国内外に少なくない。彼らはピラティスのどこに魅力を感じて、日々取り組んでいるのだろうか。またそのことと、私たち一般人がピラティスをすることとの間にはどのような関係があるのだろうか。

BASIピラティス認定のインストラクターとして10年以上にわたって世界をまたにかけて指導してきたエドワード・ボーサさんがこのほど、インストラクター養成コースの指導のために来日した。メンズアスリートのピラティス指導に定評があり、自身もさまざまな武道に精通するエドワードさんに、スポーツのトレーニングにピラティスを取り入れることをテーマに話を聞いた。

エドワードさんはどのような経緯で、アスリートにピラティスの指導をするようになったのですか?

私自身がピラティスと出会ったのは、南アフリカのケープタウンに住んでいた2001年のことです。そこにはBASIカリフォルニアでトレーニングを受けたという男性の指導者がいました。当時はまだピラティスは女性のためのものという認識でいましたから、男性が指導しているということに興味を持ち、好奇心からスタジオまで見に行ったんです。

当時私は空手や中国武術、ムエタイといった武道をやっていたのですが、ピラティスの動きやコアを強調する部分を見て、すぐにそれが武道の上達に役に立つと思いました。しばらくトレーニングを受けるうちに、自分の動きが機能的になっていくことや、ちょっとした怪我が少なくなるなど、目に見えて効果を感じるようにもなりました。

ちょうど大学を卒業したてで、これから何をしようかと考えているところだった私は、徐々にピラティスのトレーナーになることを考えるようになりました。そんな折に、BASIの創始者であるラエル・イサコウィッツがスタジオを訪れたのです。そこで目にした彼の動きに感銘を受けたことで、翌年にBASIのトレーニングを受けに海を渡ることにしました。

先ほども言ったようにその当時はまだ男性の指導者自体が珍しい状況でしたから、自然と私の下に男性のクライアントが集まるようになりました。私自身がボクシングをやっていたこともあって、最初は周りにいたボクサーを指導するようになり、その後、ラグビーやスケートボードの選手、サーファーなども指導するようになりました。

そうしたさまざまなジャンルのトップアスリートがピラティスのトレーニングを取り入れることにはどんなメリットがありますか?

まず、身体的には安全に可動域を広げることができます。多くのアスリートはもともと強い筋力を持っていることが多いですが、その筋力を保ちながら動きの幅も広げていくことができるということです。

また、腹横筋と多裂筋を活性化させることで、骨盤や腰椎の安定性を得ることができます。脊柱を安定させることはさまざまなスポーツにおいて重要なことですが、この2つの筋肉が脊柱を安定させるということは科学的にも証明されています。

さらにピラティスが他のボディコンディショニングのメソッドと違うのは、身体の全ての面、軸を使った3次元的な動きをすることです。多くのコンディショニングのメソッドは縦なら縦、横なら横といった線状の動きが中心ですが、スポーツは基本的に多次元な動きを必要とします。ピラティスであれば、そういう動きを身体に浸透させることができます。

精神面でも効果がありますか?

集中力を高めることができるという点ですね。ピラティスではさまざまな動きをする際に、どこの筋肉がどう動いているのかに意識を向けるということをします。身体を支えるのには当然、バランス感覚も必要です。

普段から生徒によく言うのですが、ジムで自転車を漕ぐだけならテレビを見たりスマホを見たりしながらでもできますが、ピラティスではそれはできません。そのことを通じて自然と集中力を養うことができます。

最近になって日本でも「マインドフルネス」という言葉が流行りだしました。ピラティスに精神面でも効果があるというのは昔から言われていたことですか?

もちろんです。これは創始者であるジョセフ・ピラティスの書籍にも書いてあることです。集中する、意識を「今ここ」に持つということはもともと強調されていました。ピラティスでは呼吸が重要なことであるとされますが、呼吸のエクササイズをするというのも、今その瞬間にいなければできないことですからね。

 

 

10年以上アスリートの指導を続けてこられて、アスリートのピラティスに対する認識に変化を感じるところはありますか?

私がトップアスリートがピラティスに取り組んでいる例があると初めて知ったのは、おそらく2004年のことだったと思います。アテネ五輪にアメリカ代表として出場し、金メダルをとったアンドレ・ウォードというボクサーが、トレーニングにピラティスを取り入れているという記事を目にしたことを覚えています。

ピラティスをやっていること自体がニュースになっていること、そのことが私にとってすごく印象的だったという事実から考えても、それは当時として非常に珍しいことだったのだと思います。

それから10年以上が経ち、アスリートや関連団体のピラティスに対する認識は、たしかに変わってきているように思います。

というのも、私自身が昨年10月から、移住先のシドニーの女子校で高校生アスリートを対象にピラティスの指導を行っています。そういう依頼があったこと自体が、早い段階で怪我をしない身体作りをすることの重要性が認識され始めた証拠でしょう。

以前は私の元を訪れるアスリートも怪我をしたことがきっかけというという人がほとんどでしたが、最近では怪我をする前にピラティスを取り入れたらどうだろうかと考える個人や団体が増え始めているように感じます。

そのようにしてアスリートがピラティスに取り組むことと、私たち一般人がピラティスを行うことにはどのような関係があるでしょうか?

身体的な側面からみたピラティスの使い方は、大きく分けて2つあるかと思います。一つは、ボディ・コンディションニングの方法として。もう一つは、ストレッチなどの治療的なアプローチです。どちらにしてもピラティスにはその人にとってチャレンジングな動きというものが必ず存在するので、一般人だってアスリートと同じようにメリットを享受することができます。

むしろ、普段はオフィスで仕事をしていて週末だけスポーツをするような人が、一番怪我のリスクが高いとも言えます。というのも、普段は座って縮こまった姿勢で生活している人が、いきなりいろいろな動きをするわけですから。

特にゴルフは、南アフリカでもオーストラリアでも人気のスポーツですが、ステータスの高い人の社交の場でもありますよね? そういうステータスの高い人ほど多くの時間を机に向かって過ごしている一方で、ゴルフはすごく複雑な動きの組み合わせで成り立っているスポーツなので、脊柱に負担がかかる。気をつけなければすぐに怪我につながりかねないというのは、知っておくべきでしょう。

ピラティスがもたらす精神面の効果も一般人に役立ちますか?

マインドフルネスは海外でもすごく流行っていますが、それだけ受け入れられているというのは、一般の人にとってもそれが必要なことだからでしょう。というのも、何をするのにもいま自分が何をしているのかに意識がない人がすごく多い。食事をするのにもテレビを見ながらで、味を楽しんでいなかったりしますよね?

ヨガやピラティスなどの「マインドフル・ムーブメント」と呼ばれるメソッドがその点でいいのは、実際に動き始める前に、自分が何をしようとしているのかに意識を向けるプロセスがあることです。日常生活にあるものは、その瞬間に意識を向けるのを阻害するようなものばかりですが、1日1時間だったとしてもそういう訓練を重ねることで、それがいずれは習慣化し、生活全般にも注意を向けることができるようになるでしょう。

text by Atsuo Suzuki