1日30回で免疫力アップ!病院いらずのお口の体操「あいうべ体操」が教える鼻呼吸の威力とは?

自分がどんなふうに呼吸しているか意識したことがありますか?

実は、日本人の約9割が、口から吸って口から吐く「口呼吸」になっているのだそうです。そしてそのことが、アトピーなどの各種アレルギー、インフルエンザ、うつといった病気を引き起こす大きなリスクになっているというのです。

そう主張するのは、福岡にあるみらいクリニックの院長、今井一彰さんです。今井さんは独自に考案した「あいうべ体操」を通じて、人間本来の呼吸法である「鼻呼吸」を広める、通称「息育」の活動を続けています。

今井さんのクリニックには日々、アトピーなどのアレルギーの病気を抱えた患者さんが多く訪れます。中には、大きな病院であらゆる治療や投薬を尽くしたものの、いっこうに良くならない”難病”を抱えた方も少なくないそうです。

しかし、そうした方が今井さんの指導の下、あいうべ体操を実践して呼吸法を「鼻呼吸」へと変えただけで、症状が劇的に改善すると言います。その間、薬は使いません。

あいうべ体操とは簡単に言えば、「あー」「いー」「うー」「ベー」と発声するように口を大きく動かす体操です。これを1日30回程度繰り返すだけで、目に見えて免疫力の向上が期待できるという手軽さです。

ピラティスにおいても呼吸の大切は繰り返し強調されますが、なぜ呼吸を変えることが、身体のあちこちの病気の治療や免疫力の向上につながるのでしょうか? 4月16日に大崎ブライトコアホールで行われた今井さんによる講演から、その答えをひもときます。

なぜ呼吸を変えるだけで病気が治るのか?

今井さんのクリニックを訪れる患者さんのうち、最も多いのはアトピーなどのアレルギーの病気に悩まされている方です。講演の中でも、腕や背中が痛々しくただれた患者さんの写真がいくつも紹介されていました。

そうした方の多くは、クリニックを訪れる以前に大きな病院にかかり、さまざまな治療法を試したり、患部にステロイドを塗布したりしたものの、改善が見られなかった経験を持っています。それが、みらいクリニックに通うこと数回で、劇的に症状が改善したというのです。

施したことといえば、あいうべ体操を通じて呼吸法を口呼吸から鼻呼吸へと変えただけ。しかしなぜ、身体のあちこちの病気を治療するのに、呼吸の改善が有効なのでしょうか?

今井さんはこのことを説明するのに、熊本県の球磨川上流にある荒瀬ダムの例を持ち出しました。このダムは、球磨川の水質改善を目指す市民運動の結果、一度建設されたダムとして日本で初めて撤去されたことで知られています。そして、上流にあるダムを撤去したことが、中流下流でダム建設以前の豊かな自然が復活することにつながったのです。

「人間の身体も同じ」と今井さんは言います。

「体内にものを取り込む入り口である鼻や口は、いわば『命の上流』です。間違ったやり方でものを取り込み続けることで、その1回1回は小さな間違いだったとしても、いずれ中流下流に大きな問題を引き起こしかねないのです。左顎だけを使って毎日食事をしていたら、次第に顔の形がゆがんでしまうというのは、想像に難くないのではないでしょうか」

食事と違って意識しにくいですが、呼吸に関してはより深刻だと今井さんは言います。今井さんによれば、成人の1日の食事量が1.5キロほどであるのに対し、1日に吸う空気の量は約20キロに及びます。その取り込み方が間違っているとすれば、より大きな問題につながって不思議ありません。

一般的な医療は病気の症状が表れている患部にのみ注目しますが、これは上流にある本当の原因に想像をめぐらせず、中流下流にのみ目を向ける「下流医療」であると、今井さんは問題提起します。今井さんが提唱し実践しているのは、「上流」からの改善なのです。

人間はしゃべることで動物本来の鼻呼吸を失ってしまった

「命の上流」たる呼吸を正しい方法で行うことが、中流下流にあたる身体の改善につながるということは分かりました。ではなぜ、口呼吸より鼻呼吸の方が正しいと言えるのでしょうか?

一般的に、平熱は高い方がより免疫力が高いとされます。今井さんによれば、鼻呼吸は体温を高める(高いまま保つ)という点で口呼吸より優れているのです。

というのも、鼻から吸われた冷たい空気は鼻毛や鼻水と接することで、温められてから体内へと入ります。一方で口から吸うと、冷たい空気をそのまま体内に取り込むことになるので、体温を下げてしまうのだそうです。

動物の中で、口から吸って口から吐く純然たる口呼吸をしているのは、実は人間だけなのだとか。それは、口を使って「しゃべる」という人間特有の行為を身につけた結果と考えられるそうです。たしかに、しゃべりながら鼻で呼吸することはできませんね。

人間も「しゃべる」という特技を身につける以前、つまり生まれた直後の赤ん坊のころは、100%鼻呼吸をしています。息継ぎすることなくおっぱいを吸い続けられることからも、そのことは分かります。実際、喃語を話すようになるころから病気にかかる確率が急激に高まるというデータもあるそうです。

激しい運動や、歌ったり楽器を吹いたりといった行為も、口呼吸を促進させる一因になると今井さんは言います。こうした行為はいずれも、他の動物は行わない人間特有の活動です。

つまり、人間は他の動物にはない人間らしい特技や活動を獲得することによって、鼻呼吸から口呼吸への移行を余儀なくされ、その結果、生まれながらに持っていたはずの高い免疫力を手放している、というのが今井さんの主張なのです。

当てはまったら黄信号。口呼吸の兆候はこれだ!

今井さんによれば、長年口呼吸をしていると、その影響は顔の表情に表れてくるそうです。講演の中で今井さんは、口呼吸をしている人のおもな特徴として以下の8つを挙げていました。

・口を軽く閉じただけで顎に梅干しのようなシワができる
・下唇が分厚い
・前歯が飛び出している
・いびきや歯軋りが激しい
・口角が下がっている
・まぶたが腫れている
・常に唇が乾き、リップクリームが友達
・左右の目の大きさが違う

以上のような特徴に自分が当てはまっているという人は、口呼吸を続けてきた悪影響がすでに表れているため、注意が必要とのこと。

ただし、最初にも触れたように、日本人の9割が口呼吸であると考えられていますから、上記の特徴に当てはまらないからといって、安心するのは早計です。

どんなに無口な人であっても、全くしゃべらないまま生活ができる人はいないでしょう。意識しなければ口呼吸になってしまうのは、人間としてむしろ自然なことです。

「自分だけは鼻呼吸だと思い込んでいる人が一番危ない。自分が口呼吸をしていると自覚することが、改善の最初の一歩です」と今井さんは強調していました。

今すぐできる「あいうべ体操」で舌の筋トレを

口呼吸が万病のもとになりかねないとして、ではどうやって鼻呼吸へと改善すれば良いのでしょうか。

誰でも気軽にできる方法でそれを目指したのが、今井さん考案の「あいうべ体操」です。

必要なのは、「あー」「いー」「うー」「ベー」と発声するように口を大きく動かす動きを繰り返すだけ。それだけで長年の癖になっていた口呼吸は鼻呼吸へと変わり、アトピー、鼻炎、花粉症などのアレルギーの病気、インフルエンザ、喘息などの呼吸の病気、うつ、体がだるいなどの心の病気、便秘や潰瘍性大腸炎などのお腹の病気に効果があることが分かっているそうです。

あいうべ体操の狙いは、「舌」の位置の改善にあります。

「口を閉じた時に、自分の舌がどの位置にあるのが正しいか分かりますか?」と今井さんは問いかけます。正解は、舌先が上あごに付いている状態。試してみればすぐに分かりますが、この状態だと口呼吸をしようとしてもできないので、結果的に誰でも鼻呼吸をすることになるのです。

逆に、口を閉じた時に舌が宙に浮いていたり、下の歯についていたりするのは危険な兆候だと今井さんは言います。これは、舌の筋力が衰えたことで、本来あるべき位置から舌が下がってきてしまった結果なのだそうです。

つまり、あいうべ体操とは、口を大きく動かすことで衰えてしまった舌の筋力を鍛えなおし、本来あるべき位置に戻すための体操なのです。

あいうべ体操についてより詳しく知りたい方は、みらいクリニックのWebサイトなどを参照するのが良いと思います。

ピラティスの呼吸は口呼吸。でも……

今井さんのクリニックに駆け込む患者さんの望みは、長年悩まされ続けてきた「病気を治す」ことです。しかしあいうべ体操は、決して「病気を治す」ためだけにあるものではありません。

「病気を治す」ことと「元気になる」ことは違う、と今井さんは強調します。あいうべ体操は「元気になる」ための体操、言い換えるならそもそも病気にならない、病院に行く必要さえない身体を作るための体操です。

そしてそのアプローチは、何か新しい能力を身につけるといったものではありません。生活する中で失っていた、身体本来の使い方を取り戻すだけ。生まれながらに持っていた力をしっかり活用することを目指した方法論と言えるでしょう。

さて、最後に。ピラティスを実践されている方ならば、ここまで読んで一つの疑問が浮かんだはずです。鼻から吸って口から吐くピラティスの呼吸についてはどう考えれば良いのか、と。

今井さんによれば、ピラティスの呼吸も口呼吸の一つに分類されるそうです。では、あいうべ体操の考え方とピラティスとは、相反するものなのでしょうか?

そうではないでしょう。

病気や怪我を治すことを最終目的とするのではなく、そもそも病気にならない元気な身体を目指すものであるという点、そのために身体が本来持っているはずの力に気づき、それを活かすというアプローチを採っている点において、両者はむしろ非常に似通っています。

まずは、普段意識することなく行っている呼吸に対して、自分の意識を向けてみる。そうすることで、気づくことがたくさんあるのではないでしょうか。

text by Atsuo Suzuki